RESEARCH

概要

表面の機能は,光・熱流体・力・電子・化学物質・生体物質などとの相互作用によってさまざまで,
表面のマイクロ・ナノ構造ではじめて発現するユニークな物理現象が数多くあります.
これらの高機能表面を,レーザや粉体を用いて効率よく加工する手法と新しい応用を研究開発しています.
また,微視的で高速な複雑現象からなるこれらの加工のプロセスウィンドウを効率よく探索するための
データ駆動型プロセス・インフォマティクスの研究も行っています.

キーワード:マイクロ・ナノ構造,表面,生産技術,レーザ,粉体,プロセス・インフォマティクス

レーザ/粉体を用いた加工方法とマイクロ・ナノ構造表面の機能的応用例の概念図

研究テーマ一覧


①レーザアシストロール熱ナノインプリント法の開発


②レーザ積層造形法(金属3Dプリンタ)におけるその場観察とそれを用いたプロセス・インフォマティクス


③マイクロ・ナノ構造の熱伝達表面


大面積マイクロ・ナノ構造光学素子のローラ成形;④分光構造,⑤反射防止構造,⑥光取出し構造

 

⑦金属ナノ粒子のスクリーン印刷法によるフレキシブル配線フィルムの開発

 

⑧3次元細胞培養テンプレートの射出成形


⑨接合界面におけるアンカー効果と化学結合効果のメカニズム解明


⑩高性能トライボロジ表面の微細加工;低摩擦,耐摩耗,耐焼付き


⑫ナノ構造表面の接触電気抵抗を用いた微小力センサ


⑬テクスチャ表面の液滴滑落メカニズム解明


⑪固体酸化物形燃料電池電極の制御加工

 

燃料電池は,燃料の化学エネルギを電気エネルギに直接変換するため,原理的に取り出せるエネルギ(エクセルギという)が高く,燃料コストやCO2排出量の削減が要求される中で盛んに研究されている.中でも,固体酸化物形燃料電池(SOFC: Solid Oxide Fuel Cells)は高温で作動するため,固体高分子形燃料電池(PEFC: Polymer Electrolyte Fuel Cells)に比べて効率が高い.また水素だけでなく炭化水素やアルコールなどを直接用いることができる.
 しかし,現状の燃料電池では,電極内の微細構造はランダムに構成されているためイオン・電子・ガスの物質輸送抵抗が大きく,理論効率には程遠い.燃料極において,酸化物イオン・電子・ガスはそれぞれYSZ(イットリア安定化ジルコニア)・Ni・空隙内を輸送され,その三相界面(TPB: Triple-Phase Boundary)において化学反応が起きる.本研究では,Ni粒子を磁場を用いて配列させることで,三相の屈曲率(物質の輸送しにくさの指標)を下げることを提案する.このことで,活性TPB率も向上させることができた.

K. Nagato, K. Shintani, T. Shimura, N. Shikazono, M. Nakao, “Magnetic alignment of anode structure in solid oxide fuel cell”, J. Electrochem. Soc. 166 (2019) F144-F148.
T. Shimura, K. Nagato, N. Shikazono, “Evaluation of electrochemical performance of solid-oxide fuel cell anode with pillar-based electrolyte structures”, Int. J. Hydrogen Energy 44 (2019) 12043-12056.

レーザアシストナノインプリント

ナノインプリントリソグラフィは,安価な次世代リソグラフィの一つとして考えられ,近年研究が盛んに行われている.本来,「型転写」や「印刷」は大昔から用いられている生産技術であるが,ナノ・マイクロパターンを大面積に精密転写するのはフォトリソグラフィが多用されている.例えば,LSIやフラットパネルディスプレイなどがある.しかし,LSIの微細化限界やフラットパネルディスプレイのフレキシブル化,パターンドメディアの量産課題などが要求されるようになり,改めて研究が行なわれるようになってきた.
 熱ナノインプリントは熱可塑性樹脂に金型を押し付け,加熱→充填→冷却→離型することで,金型のパターンの反転をPMMA樹脂表面に転写する.一般的な熱ナノインプリントでは,ヒータで金型・基板全体を加熱,冷却流路でさらに全体を冷却させるため,金型・基板・ヒータ・冷却流路・パンチなどシステム全体の熱伝導率や熱容量の限界から,サイクルタイム短縮やエネルギ効率向上に限界がある.転写するために加熱・冷却させるのは表層のみで良いので,本研究ではレーザを用いて直接加熱する.レーザを切ると,温度の低い金型と基板内部に熱伝導で冷却される.この方法で,スポット転写・ライン転写・面転写に成功している.

Keisuke Nagato, Yuki Yajima, Masayuki Nakao, “Laser-assisted thermal imprinting of microlens arrays –Effects of pressing pressure and pattern size–”, materials 12 (2019) 675. doi: 10.3390/ma12040675.
Keisuke Nagato, Nana Takahashi, Yuki Yajima, Masayuki Nakao, “Heat conduction and polymer flow in spot/scanning laser-assisted imprinting” Mech. Eng. J. 6 (2019) 18-00553. https://doi.org/10.1299/mej.18-00553
K. Nagato, K. Takahashi, T. Sato, J. Choi, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Laser-assisted replication of large-area nanostructures”, J. Mater. Process. Technol. 214 (2014) 2444-2449. http://dx.doi.org/10.1016/j.jmatprotec.2014.05.025

ロールナノ成形

ナノインプリントリソグラフィは,安価な次世代リソグラフィの一つとして考えられ,近年研究が盛んに行われている.本来,「型転写」や「印刷」は大昔から用いられている生産技術であるが,ナノ・マイクロパターンを大面積に精密転写するのはフォトリソグラフィが多用されている.例えば,LSIやフラットパネルディスプレイなどがある.しかし,LSIの微細化限界やフラットパネルディスプレイのフレキシブル化,パターンドメディアの量産課題などが要求されるようになり,改めて研究が行なわれるようになってきた.
 熱ナノインプリントは熱可塑性樹脂に金型を押し付け,加熱→充填→冷却→離型することで,金型のパターンの反転をPMMA樹脂表面に転写する.一般的な熱ナノインプリントでは,ヒータで金型・基板全体を加熱,冷却流路でさらに全体を冷却させるため,金型・基板・ヒータ・冷却流路・パンチなどシステム全体の熱伝導率や熱容量の限界から,サイクルタイム短縮やエネルギ効率向上に限界がある.転写するために加熱・冷却させるのは表層のみで良いので,本研究ではレーザを用いて直接加熱する.レーザを切ると,温度の低い金型と基板内部に熱伝導で冷却される.この方法で,スポット転写・ライン転写・面転写に成功している.

– K. Nagato, S. Sugimoto, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Iterative roller imprint of multilayered nanostructures”, Microelectron. Eng., 87 (2010) 1543-1545.

積層ナノ構造

3次元フォトニック結晶や多層光学素子の創製には,ある材料をナノパターンのサイズと同等の厚さで周期的に積層させる技術が必要でなる.下図(左)はナノパターンをPMMA薄膜に熱インプリント・熱接着を繰り返すことで,ナノ空間(空気または真空)を周期的に積層させたものである.右図は,熱インプリントしたPMMA薄膜の上に金属膜(成膜できる材料であれば何でも良い)を成膜し,次の薄膜樹脂を充填しながらその上部も熱インプリント,これを繰り返すことで空間だけでなく異種材料も積層できることを示した例である.インプリントする角度を毎回変えることで,右図のようなある角度でクロスした構造も作製可能である.

– T. Hamaguchi, H. Yonemoto, K. Nagato, K. Tsuchiya, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Single-pass forming for three-dimensional microstructures by high-speed shearing of multilayered thin films”, J. Vac. Sci. Technol. B 26 (2008) 1771-1774.
– H, Suzuki, K. Nagato, K. Tsuchiya, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Iterative imprint for multilayered nanostructures by feeding, vacuum forming, and bonding of sheets”, J. Vac. Sci. Technol. B 26 (2008) 1753-1756.

射出成形

Si基板などにレジストを型転写でパターニングするナノインプリントリソグラフィの研究が盛んになる中で,バルクの樹脂やガラス表面にナノ・マイクロパターンを刻印することで高機能光学素子やバイオデバイスを作製する研究も行われている.射出成形は,さまざまなプラスチック部品や工業製品の製造に広く用いられている生産技術である.金型(射出成形の場合,キャビティという)さえ作れれば,3次元形状も作製可能である.また,多くの射出成形では,高温の溶融樹脂を冷たい金型に流し込みキャビティに充填させながら冷却・固化を同時に行うため,原理的にサイクルタイムが短い.しかし,冷たい金型に溶融樹脂が触れた際の冷却スピードが高いため,「スキン層」と呼ばれる固化層ができ,薄い,あるいは微細なキャビティに充填するのは困難とされている.CDやDVDなどの光ディスクはナノ構造の射出成形(正確には射出圧縮成形)の代表的な技術であるが,型温度制御,高速射出,高流動樹脂などを駆使して実現している.
 下図はナノ構造の射出成形例であるが,通常の成形(左図左,右図(b))では転写不十分であるのに対し,金型表面を充填中のみ温めておくことで充填可能となる(左図右,右図(c)).これを「熱アシスト射出成形」と称し,研究を行っている.

K. Nagato, “Injection compression molding of replica molds for nanoimprint lithography”, Polymers 6 (2014) 604-612. doi:10.3390/polym6030604
S. Hattori, K. Nagato, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Rapid injection molding of high-aspect-ratio nanostructures”, Microelectron. Eng. 87 (2010) 1546-1549.

過去の研究(2009年以前)の概要

ガスクラスターイオンビーム

次世代磁気ディスクの候補の一つとして,磁性膜を物理的に切るパターンドメディアの研究が盛んに行われている.1インチ平方あたり1Tbを超える記録密度を達成するには,現在の微細化技術では限界があるとされている.隣り合う磁区のスピン同士が干渉し,記録が保てないからである.磁性膜をパターニングしたものをディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)と呼ばれている.パターニングされたディスク表面は,磁気ヘッドの浮上特性向上・浮上量低減に向けてディスクをよりフラットに仕上げている現在の方向と逆走することになる.そこで,パターニングされた磁性膜の溝を非磁性膜で埋め戻し,フラットな表面を得れば,ヘッドのトライボロジ・浮上特性の面で有利になると考える.
 兵庫県立大学豊田研究室との共同研究でガスクラスターイオンビームを埋め戻した表面をフラットに仕上げるのに,ガスクラスターイオンビーム(GCIB)を用いることに着眼し,研究している.これまでに埋め戻し材料をDLCとし,Arクラスターを照射することで,ピッチ90nm深さ20nmのL/SをRa2nm以下のフラットな表面を得た.

– K. Nagato, H. Tani, Y. Sakane, N. Toyoda, I. Yamada, M. Nakao, T. Hamaguchi, “Study of gas cluster ion beam planarization for discrete track magnetic disks”, IEEE Trans. Magn. 44 (2008) 3476-3479.
– N. Toyoda, K. Nagato, H. Tani, Y. Sakane, M. Nakao, T. Hamaguchi, I. Yamada, “Planarization of amorphous carbon films on patterned media using gas cluster ion beams”, J. Appl. Phys. 105 (2009) 07C127-1-3.
– N. Toyoda, T. Hirota, K. Nagato, H. Tani, Y. Sakane, M. Nakao, T. Hamaguchi, I. Yamada, “Planarization of bit-patterned surface using gas cluster ion beams”, IEEE Trans. Magn. 45 (2009) 3503-3506.

アトムチップ

原子をレーザにより冷却する技術がある.物理工学科香取研究室との共同研究で,レーザ冷却された原子をチップ上でマニピュレーションし,量子情報処理を目指す研究を行っている.ナノ・マイクロ加工技術を用いてその電極を作製し,実際にトラップすることができた(左図).トラップサイトを複数有する電極や,チップ内で原子を輸送する電極を作製しその実験に挑戦している.

– T. Kishimoto, T. Hachisu, J. Fujiki, K. Nagato, M. Yasuda, H. Katori, “Electrodynamic trapping of spinless neutral atoms with an atom chip”, Phys. Rev. Lett. 96 (2006) 123001-1-4.
– K. Nagato, T. Ooi, T. Kishimoto, H. Hachisu, H. Katori, M. Nakao, “Design and prototyping of Stark atom chip for electric trapping of laser-cooled atoms”, Precis. Eng. 30 (2006) 287-395.

カーボンナノチューブのレーザ局所生成

グラファイトを丸めた構造で,様々な電気特性を示すカーボンナノチューブは,ナノテクノロジー分野の中で最も数多く研究されている対象の一つである.それをナノデバイス生産に応用する技術の候補として,局所的に温度を高めその部分のみにカーボンナノチューブを生成させる技術を提案した.局所加熱させるためにレーザを用い,左図のようにレーザを効率的に基板表面に吸収させ熱に変換させるために「エネルギ吸収層」と称する層を形成し,直径約1μmの範囲にカーボンナノチューブを生成させることに成功した(右SEM像).また,ラマン分光により,これが電子デバイスに有用な単層カーボンナノチューブであることを確認している.

– K. Kasuya, K. Nagato, Y. Jin, H. Morii, T. Ooi, M. Nakao, “Rapid and localized synthesis of single-walled nanotubes by laser-assisted chemical vapor deposition”, 46 (2007) L333-L335.

酸化金属ナノワイヤの局所生成

金属を,コントロールされた酸素雰囲気下で加熱すると,単結晶酸化金属ナノワイヤが生成される.酸化金属は材料によって異なるが,あるバンドギャップをもつことから,FET(電界効果トランジスタ)やガスセンサに応用できる可能性がある.また,先端がナノスケールで尖っていることからフィールドエミッション(電界放出)素子としても期待される.下図はタングステンのスパッタ膜を高温加熱することで生成した酸化タングステンナノワイヤ(W18O49)である.デバイス応用のために,タングステン薄膜のワイヤパターニングと通電加熱を組み合わせ,生成温度箇所を制御し,アレイ化したものである.このように局所生成技術はフィールドエミッション特性の向上や,デバイス製作場所制御などに有用である.

– Y. Kojima, K. Kasuya, T. Ooi, K. Nagato, K. Takayama, M. Nakao, “Effect of oxidation during synthesis on structure and field emission properties of tungsten oxide nanowires”, Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) 6250-6253.
– K. Nagato, Y. Kojima, K. Kasuya, H. Moritani, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Local synthesis of tungsten oxide nanowires by current heating of designed micropatterned wires”, Appl. Phys. Express 1 (2008) 014001-1-3.
– Y. Kojima, K. Kasuya, K. Nagato, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Solid-phase growth mechanism of tugsten oxide nanowires synthesized from sputtered tungsten film”, J. Vac. Sci. Technol. B 26 (2008) 1942-1947.

酸化タングステンナノワイヤのフィールドエミッション特性を向上させる方法としてナノワイヤを適度に分散させる方法がある.ナノワイヤの間隔が広がるとナノワイヤ先端に集中する電界が大きくなり,逆にナノワイヤの密度が高いと放出源が増え,単位面積当たりの電流密度が上がる.その効果を,タングステン薄膜をパターニングして作製した色々なピッチ(2/5/10/20/30)のアイランドに生成させフィールドエミッションさせ調べた.左図の□1μmのアイランドでは,ピッチ5μmの基板が最も電流密度が高いことがわかった.

K. Sekiya, K. Nagato, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Morphology control of nickel oxide nanowires”, Microelectron. Eng. 98 (2012) 532-535.http://dx.doi.org/10.1016/j.mee.2012.07.049
M. Furubayashi, K. Nagato, H. Moritani, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Field emission properties of discretely synthesized tungsten oxide nanowires”, Microelectron. Eng. 18 (2009) )1594-1596.

酸化鉄ナノワイヤを用いた反射防止構造の作製

K. Nagato, H. Moritani, T. Hamguchi, M. Nakao, “Fabrication of antireflection-structured surface using vertical nanowires as an initial structure”, J. Vac. Sci. Technol. B 28 (2010) L39.
– K. Nagato, M. Furubayashi, T. Hamaguchi, M. Nakao, “Direct synthesis of a-Fe2O3 nanowires from sputtered thin film”, J. Vac. Sci. Technol. B 28 (2010) C6P11.

オートバランス

これまでは,ナノ加工技術,ナノ材料生成に関する研究を紹介したが,回転体の偏芯補正に関する研究も行っている.ハードディスクやポリゴンミラーなど高速回転する回転体は,高精度に偏芯(アンバランス)を補正する必要がある.その生産ラインで用いることを想定し,瞬時に補正・固定する方法として,共振周波数を超えて,流路内の光硬化樹脂がアンバランスの逆位相に位置したときにUVを照射して硬化させる.実際に実証実験装置を用いて元のアンバランスの20%に補正した.

K. Nagato, T. Ide, N. Ohno, M. Nakao, T. Hamaguchi, “Automatic unbalance correction of rotors by synpathetic phase inversion of UV-curing resin”, Precis. Eng. 33 (2009) 243-247.